高齢者等終身サポート専門行政書士の森です。
第2回のコラムで遺言書の重要性を、第8回で家族信託について解説しました。「遺言書さえ書いておけば、財産の分け方で家族が揉めることはない」とお考えの方も多いかもしれません。
しかし、残念ながら、法的に有効な遺言書があったとしても、それが原因で「争族」が発生してしまうことがあります。その核心にあるのが、日本の民法で定められている「遺留分(いりゅうぶん)」という権利です。
今回は、この遺留分とは何か、それが家族間の争いを引き起こす仕組み、そして、終身サポート専門の行政書士として私たちが推奨する争いを未然に防ぐ具体的な対策について解説します。
1. 「遺留分」とは?なぜ遺言書を無効にしないのか
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に対し、故人(被相続人)の財産のうち、法律で保障されている最低限の取り分のことです。これは、たとえ故人が「全財産を長男に相続させる」という遺言を残していたとしても、それを上回る強い権利として存在します。
遺留分を持つ権利者
遺留分を持つのは、以下の相続人です(兄弟姉妹には遺留分はありません)。
・配偶者(妻または夫)
・子、またはその代襲相続人(孫など)
・直系尊属(父母、祖父母など)
遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)
遺言書によって遺留分が侵害された相続人は、財産を多く受け取った相続人に対し、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを請求できます。これを「遺留分侵害額請求」と呼びます。
この請求は、権利を知ってから1年以内に行う必要があり、しばしば感情的な対立や裁判に発展し、「争族」の最も深刻な原因となります。
2. 遺留分トラブルを防ぐ生前の「3つの対策」
遺留分は、家族の生活保障という観点から守るべき権利ですが、対策を講じることで、紛争のリスクを大幅に下げることができます。
対策1:遺言書作成時における「遺留分への配慮」
遺言書を作成する際、特定の相続人に財産を集中させる意向がある場合でも、遺留分を意識した文面を盛り込むことが鉄則です。
請求権の明記と金銭の準備:遺言書に、「(遺留分権利者)には、遺留分相当額として金銭○○万円を支払う」と明記し、その支払いのための現金資産や生命保険を確保しておきます。
付言事項で心情を伝える: 遺留分を侵害する結果になる場合でも、「なぜそのように分けるのか」という故人の思いや理由を付言事項として記すことで、遺族の感情的な納得を得やすくなります。
対策2:生命保険を「遺留分対策」として活用する
生命保険金は、原則として相続財産ではなく受取人固有の財産とみなされます。この特性を利用して、遺留分対策として活用します。
遺留分権利者を受取人にする:遺留分を侵害される可能性のある相続人(例:事業を継がない子など)を、生命保険の受取人に指定し、遺留分相当額を受け取れるように設計します。保険金は迅速に現金で支払われるため、遺産分割を待たずに生活資金を確保でき、争族のリスクを低減できます。
対策3:「生前贈与」や「負担付死因贈与」の活用
生前贈与を行う場合、原則として相続開始前の1年間の贈与のみが遺留分の計算対象とされます。ただし、遺留分権利者に対し損害を加えることを知って行った贈与は、それ以前の贈与でも対象となります。
また、負担付死因贈与(例:「自宅を贈与する代わりに、配偶者の生活の面倒を見る」など)も、遺留分対策や事業承継対策において有効な手段となり得ます。
まとめ:争族を未然に防ぐ、専門家による「調整」
遺留分対策は、単なる法的な知識だけでなく、ご家族の感情や関係性を深く考慮したデリケートな調整が必要です。
・財産評価を正確に行い、遺留分の割合を正しく算出すること
・遺言書、生命保険、生前贈与など、複数の対策を組み合わせて最適なプランを設計すること
高齢者等終身サポート専門の行政書士は、これらの対策をトータルで設計し、ご家族間の争いを未然に防ぐための「公正な立場の第三者」としてサポートいたします。
「うちの家族は大丈夫」と思わず、将来のトラブルの芽を摘むためにも、遺留分を意識した生前対策を今すぐにご検討ください。
【今回の内容の関連コラム】
第2回:遺言書はなぜ必要?公正証書遺言と自筆証書遺言の決定的な違い
第8回:家族信託(民事信託)とは?大切な財産を「託す」仕組みを解説