高齢者等終身サポート専門行政書士の森です。
第9回のコラムでは、「もしもの時の安心」のために、ご自身で信頼できる人に財産管理などを託す任意後見契約について詳しく解説しました。しかし、「まだ大丈夫」「もう少し先でいい」と準備を後回しにしている方も少なくありません。
では、任意後見契約を結ばないうちに認知症などで判断能力が低下してしまった場合、私たちの生活や財産はどうなるのでしょうか。
今回は、任意後見契約がない場合に利用される「法定後見制度」について、その仕組みと、ご家族にとって大きな負担となりかねない3つのデメリットを、専門家の視点からわかりやすくご説明します。
法定後見制度とは?誰が財産を守るのか
法定後見制度は、すでに判断能力が不十分になってしまった方(ご本人)を、法律的に保護・支援するための制度です。ご本人やご家族、あるいは行政などが家庭裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所がご本人の状況に応じて最も適切な支援者(成年後見人など)を選任します。
この制度の目的は、ご本人の財産を守り、不利益な契約から保護することです。ご本人の判断能力の程度に応じて、以下の3つの類型に分かれます。
後見:判断能力を欠く常況にある方。
保佐:判断能力が著しく不十分な方。
補助:判断能力が不十分な方。
成年後見人が選任されると、預貯金の管理や介護・福祉サービスに関する契約、不動産の処分などの法律行為を、ご本人に代わって行えるようになります。
任意後見にはない法定後見制度の3つのデメリット
法定後見制度は、ご本人を保護するセーフティネットですが、任意後見契約と比較すると、ご自身の意思やご家族の自由度が著しく制限されるという側面があります。この制限こそが、法定後見を知る上で最も重要なポイントです。
デメリット1:誰が後見人になるか「自分で選べない」
任意後見契約の最大のメリットは、「誰に任せるか」を自分で決められる点です。息子さん、娘さん、信頼できる専門家など、自由に選ぶことができます。
一方、法定後見制度では、家庭裁判所がご本人にとって最適と判断する人物を選任します。
専門職後見人の選任:親族が申し立てをしても、財産内容や親族間の関係性によっては、弁護士や司法書士、行政書士などの専門職が後見人として選ばれるケースが増えています。
親族による辞任させることが困難:一度選任された後見人は、ご家族の希望で簡単に辞任させることができず、財産管理のやり方などで意見が対立しても、後見人を変更するのは困難です。
デメリット2:財産の「自由な活用」が厳しく制限される
法定後見制度の目的は「財産保全」にあります。ご本人の財産を守るため、後見人は家庭裁判所の監督下に置かれ、財産を柔軟に活用したい場合でも、裁判所の許可が必要となることがあります。
積極的な資産運用:相続対策のための不動産購入やアパート経営など、積極的な資産運用は原則として認められません。
生前贈与や家族への援助:家族への援助や、相続対策のための生前贈与などは、ご本人の利益にならないと判断されれば、認められないのが原則です。
自宅の売却も許可が必要:施設入所の資金のために自宅を売却する場合も、家庭裁判所の許可を得る必要があり、手続きに時間と労力がかかります。
デメリット3:後見人の費用負担が「ご本人の負担」となる
親族が後見人になる場合を除き、専門職が選任される場合、後見人には毎月報酬を支払う必要があります。
報酬の相場:財産額によって変動しますが、月額2万〜6万円程度が目安とされており、これはご本人の財産から支出されます。
長期的な費用負担:認知症になってからご本人が亡くなるまで、長期間にわたってこの費用が発生し続けるため、財産が少額である場合は、その費用負担が重くなる可能性があります。
法定後見制度を知ることが「備え」の第一歩
法定後見制度は、必要な時にご本人を守ってくれるセーフティネットですが、同時にご自身の意思やご家族の希望を反映させにくいという現実があります。
だからこそ、ご自身が元気なうちに任意後見契約を結び、財産の管理や生活上の支援について、誰に・何を・どのように任せるかを明確にしておくことが、終身サポートにおける最良の選択といえます。
「もしも」の時に「まさか」とならないよう、法定後見制度の仕組みを知り、「自分で選ぶ安心」である任意後見契約の準備を、ぜひ今から始めてみませんか。
ご自身の意思を反映した任意後見契約の作成や、ご家族の状況に合わせた最適な終身サポートプランについてのご相談は、高齢者等終身サポート専門の当事務所までお気軽にお問い合わせください。
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