高齢者等終身サポート専門行政書士の森です。
これまでのコラムで、私たちは財産(遺言、家族信託)や生活(任意後見、見守り)に関する生前の備えについて深く掘り下げてきました。しかし、終身サポートにおいて、もう一つ非常に重要でありながら、触れるのが難しいテーマがあります。それは、「人生の最期」に関するご自身の意思です。
具体的には、病気などで回復の見込みがない状態になった際、「延命治療を望むか、望まないか」という、尊厳死や延命治療に関する意思表示です。
今回は、ご自身の尊厳を守り、そしてご家族の精神的な負担を軽減するために、私たちがサポートできる「尊厳死宣言公正証書(リビングウィル)」について解説します。
1. なぜ「リビングウィル」を公正証書で残すべきなのか?
終活の一環として「延命治療は望まない」とエンディングノートに書いている方も多いでしょう。しかし、医療の現場では、エンディングノートのような私的な文書だけでは、その意思を完全に尊重することが難しいのが現状です。
これは、医師には「救命義務」があること、またご家族が直面する「延命治療を中止する」という重い決断に、法的根拠が不十分な文書では対応しきれないためです。
ここで、尊厳死宣言公正証書(リビングウィル)が大きな意味を持ちます。
法的な確実性と強い証拠力
公正証書は、公証役場で公証人(元裁判官や検察官などの法律の専門家)が、ご本人の意思を直接確認して作成する公文書です。
この「公の証明力」があるため、ご自身の意思が「明確かつ真摯なもの」であったという強い証拠となり、医師やご家族に対して、延命治療中止の判断を求める際の大きな根拠となります。
家族を「究極の選択」から解放する
回復の見込みがない状況で、延命治療を続けるか、中止するかという判断は、ご家族にとって想像を絶する重い決断となります。特にご家族間で意見が分かれた場合、深刻な対立を生む原因ともなりかねません。
公正証書があれば、ご家族は「これは故人の明確な意思である」という盾を持つことができ、「あの時、私たちが止めてよかったのか」という後悔や罪の意識を大きく軽減することができます。
2. 尊厳死宣言公正証書に記載する主な内容
尊厳死宣言公正証書では、一般的に以下の事項を明確に宣言します。
延命措置の拒否の意思:不治かつ末期の状態になった際、生命維持のためだけの延命措置を一切行わないことを明確に宣言します。
緩和ケアの要望:延命措置は拒否しても、痛みや苦痛を取り除くための緩和医療(ターミナルケア)は最大限に施してほしいと要望します。
意思を伝える人(執行者)の指定:ご自身の意思を医療関係者に伝える執行者(ご家族や任意後見人など)を定めることができます。これにより、意思が確実に実行されるようになります。
任意後見契約との連携
第9回で解説した「任意後見契約」を結んでいる場合、任意後見人がこの宣言の執行者となることが最も有効です。財産の管理・生活のサポートから、医療に関する意思表示の実行まで、一貫して信頼する人に任せることができます。
3. 終身サポート専門の行政書士ができること
尊厳死宣言公正証書を作成するにあたって、私たちは単に書類作成を代行するだけではありません。
意思の確認と整理:「延命治療の拒否」が具体的にどのような意味を持つのか、ご本人の意思が本当に固いものなのかを、専門家として時間をかけてヒアリングし、曖昧な点を明確化します。
公証人との調整:宣言書の内容が法的な形式を満たすよう文案を作成し、公証役場との打ち合わせや予約をすべて代行します。
他の契約との連携:任意後見契約 や死後事務委任契約 といった、他の終活の備えと内容が矛盾しないよう、トータルな視点からサポートします。
ご自身の最期を「自分で決める」ことは、最高の尊厳です。その意思を公的な文書として確実に残し、ご家族に安心を贈るための備えを、専門家と共に今から始めてみませんか。
まとめ:人生の最終章を、ご自身の「意思」でデザインする
尊厳死宣言公正証書の作成は、単なる法的な手続きではなく、ご自身の人生の最終章を「ご自身の意思」でデザインするための、非常に前向きで大切な準備です。この備えによって、ご自身の尊厳が守られるだけでなく、残された大切なご家族の精神的な負担を大きく軽減することができます。
尊厳死宣言公正証書に関するご相談や、他の終活に関する契約との組み合わせについてのご質問は、高齢者等終身サポート専門の当事務所までお気軽にお問い合わせください。
初回相談は無料です。将来への不安を解消し、ご自身らしい最期を迎えられるよう、丁寧にサポートさせていただきます。
【今回の内容の関連コラム】
第9回:任意後見契約とは?「もしも」に備える安心の準備
第11回:「死後事務委任契約」とは?亡くなった後の手続き、誰に任せますか?