高齢者等終身サポート専門行政書士の森です。
相続や終活の対策として「家族信託」という言葉を耳にする機会が増えました。しかし、遺言や任意後見に比べると、まだまだ世の中に浸透していないのが現状です。
この背景には、制度の複雑さや「資産家のため」という誤解など、いくつかの要因があります。しかし、私たちがご相談者様から一番感じる、普及を阻む大きな壁、それは「存命中に、自分の大切な財産の名義が自分でなくなることへの、何とも言えない気持ち悪さ」ではないでしょうか。
今回は、この心理的な壁を乗り越え、家族信託があなたの「想い」を実現するための最も確実な仕組みであることを、わかりやすくご説明します。
家族信託の「気持ち悪さ」の正体
なぜ、名義を他人に渡すことに抵抗があるのでしょうか。それは、私たちが法律(民法)を通して長く培ってきた「所有権は丸ごと一つ」という常識と、信託の考え方が根本的に異なるからです。
民法の世界では、不動産や預貯金の名義を持っている人(所有者)が、その財産を使う権利も独占しています。そのため、「名義を渡す=すべてを失う」と感じてしまうのは当然です。
しかし、信託法の世界では、財産の「所有権」を「名義(管理・処分権限)」と「利益を受け取る権利」に切り離して考えます。
・委託者(あなた):財産を託す人(お願いする人)。
・受託者(ご家族):財産の名義をもち、管理・運用を託される人。
・受益者(あなた):財産から利益を受け取る人(権利を持っている人)。
家族信託は、この「利益を受け取る権利」(受益権)を、ご本人がしっかりと手元に残したまま、「名義」(管理・処分権限)だけを信頼できる家族に託す仕組みなのです。
不安を「安心」に変える!家族信託の3つの確実なメリット
名義が変わっても、あなたが「利益」や「コントロール」を失うわけではありません。むしろ、信託によって、あなたの「想いの実現」はより確実になります。
1.認知症による「財産凍結」を回避できる確実な安心
「名義」は受託者(ご家族)に移りますが、利益を受ける権利(受益権)はあなた自身に残ります。この状態であれば、たとえ将来あなたが認知症などで判断能力を失ったとしても、受託者が凍結されることなく、あなたの財産を管理・運用し続けることができます。
入院費の支払いや自宅の修繕など、生活に必要な資金を、ご家族が滞りなく引き出し、使うことができる。これは、後見制度よりも柔軟かつ確実に、あなたの老後生活を支える「守りの仕組み」となります。
2.2世代、3世代先の資産承継まで「確定」できる柔軟性
遺言書は、原則として「誰に(1世代先)、何を渡すか」しか指定できません。しかし、家族信託は、「受益者(利益を受ける人)の権利」を連続させることができます。
例えば、「私が生きている間は私が利益を受け取り、私が亡くなったら妻に、妻が亡くなったら長男にこの不動産からの収益を渡す」といった、2世代、3世代にわたる資産承継の道筋を、あなたの意思で「確定」させることができるのです。
3.ご家族による「不正」を防ぐための守りの仕組み
「名義を託した家族が、万が一財産を使い込んだらどうしよう…」という不安も当然あります。しかし、家族信託は、そうしたリスクに対しても対策を講じることができます。
信託監督人(専門家)の設置: 信託契約に、受託者(名義人)の財産管理をチェックする第三者(専門家)をあらかじめ定めておくことができます。
不正発覚時の対応: 万が一、受託者の不正が発覚した場合、受託者の解任手続きや損害賠償請求、場合によっては刑事告訴などの法的対応を取ることが可能です。
後継受託者の事前指定: 受託者が先に亡くなったり、病気になったりした場合に備え、次の受託者を契約書で明確に指定しておくことで、信託財産の管理が途切れる心配もありません。
大切なのは「ご本人の納得」(遺言・任意後見と同じ)
家族信託は、まさに「想いの実現をほぼ確定する仕組み」です。しかし、この制度が遺言や任意後見と同じく、ご本人が心から納得していない状況で進めるべきではない、というのが私たちの考えです。
仕組みが複雑に見えるため、「自分が活用するイメージが湧かない」と感じる方も少なくありません。
私たちの役割は、この複雑な信託の仕組みを、ゴッホの絵が感情を伝えるように、あるいは手話通訳が「声なき声」を形にするように、お客様の想いやご希望を丁寧に伺い、法律という「言葉」で正確に、そして心に届く形で「通訳」することです。
まずは、「名義変更の不安」ではなく、「ご家族にどのような安心を届けたいか」という目的から、一緒に考えてみませんか。家族信託は、資産家だけの制度ではありません。
初回相談は無料です。どうぞお気軽にご相談ください。